粟根まこと
コメント

粟根まこと

――次の新作は博多座からスタートする“生田斗真サンキュー公演”だと聞いた時は、どんなお気持ちでしたか。

やはり2020年の『偽義経冥界歌』の博多公演が全公演中止になったという因縁がありましたので、まずはこれでようやくリベンジできることを嬉しく思いました。同じく斗真くんの主演で、博多座で初日を開けられるのは感慨深いものがあります。今回はトラブルなく東京、大阪まで行ければいいですよね。あの時は緊急事態宣言が出てしまい、こちらとしては準備はすべて整っていたにもかかわらず政府の要請に従ってクローズせざるを得なかった。だけど意地で、いのうえがゲネプロだけやろうと言い、博多座のスタッフの方々に客席に座っていただいて観てもらったんです。外に立てるはずだった幟旗(のぼりばた)を劇場内に飾ってくださったり、楽屋口に入ってすぐのところには『偽義経』の東京公演の舞台写真を貼ってくださっていたので、最後はみんなでそれを愛でてから帰りました。「悔しいね」って言いながら。ともかく今回は、あれ以来の博多座からのスタートで、これでようやく落とし前がつけられる。非常に楽しみです。

――『バサラオ』の台本を読まれた感想は、いかがだったでしょうか。

もうね、結構なヒドい話なんですよ(笑)。いのうえも公式コメントで語っていましたが、ここ数年は新感線も意識的に明るめの物語にしてきたんです。前回の『天號星』(2023年)にしてもとっつきには少し怪しげな雰囲気があったものの、全体的には楽しくポップでスカッとする話になっていて。その分、今回は揺り戻し的に中島節が炸裂しております。斗真くん扮する主人公のヒュウガはひどく自分勝手な男なのに、とてつもない魅力を持っている。これまでよりさらにドロドロ加減も輪をかけていますし、裏切りも多いですね。題材としては鎌倉から南北朝、室町へと続く時代の転換点であり、簡単に言えばイデオロギー闘争なんですよ。だから、どちらも悪くないんです、ただ良い国にしたいと主張し合っているだけなので。

――その中で粟根さんが演じるキタタカは。

実質的に最後の執権となった、歴史書では暗君として描かれている人物がモデルになっているようです。田楽や闘犬などに興じ、政治を顧みず国を滅ぼしたという書かれ方をしていたりもする人なのですが、今作ではそういった姿とはまったく関係なく自分勝手で好戦的な男になっていますね。もし史実を予習されたいという方がいらっしゃれば、『太平記』を読んでおくことをお薦めします。これは鎌倉終焉から室町創成期の南北朝が描かれていて、物語としても面白い。『バサラオ』では史実にのっとって進む部分もあるのですが、どんどん中島さんのオリジナルの物語に引きずりこまれていきますので、資料としてはあくまで参考程度にということにはなりますけども。

――今回は悪い人間ばかりが出てくる“ピカレスクロマン”でもあります。悪役を演じるにあたって思い入れなど、ありますか。

悪役側からしたら、たぶん自分の思い通りに生きているだけなんですけどね。社会的に悪と言われると確かにそうなんですが、悪人にもそれぞれの主義主張がありますし。ただ新感線はエンターテインメントなので、悪役は悪い人として描かざるを得ないし、そうだとしたら極端なほうが良かろうということになる。それで、悪い部分を拡大して演じるようになるから極端なキャラクター設定になり、悪役ならではの魅力もますます出てくるんだろうなと思います。

――共演者の顔ぶれについて、粟根さんからいつもの解説をお願いします(笑)。

まず心強いのは、今回は全員が新感線経験者であること。斗真くんはこれが5度目、りょうさんと倫也くんは3度目、西野さんは2度目。いのうえ演出の経験者に集まっていただいているので、我々劇団員としても接しやすいし新感線の芝居の作り方も既にわかっていただけているはずだから、稽古始めのちょっとフワフワした時間が発生しない。新感線の演劇というのは普通の演劇とは違う特殊な演出法や稽古手法がありますので、初めて参加される方は面白がってくれたり、逆に戸惑われたりといろいろなのですが、今回はそこにクッションを挟まずすぐに稽古に入れそうなのでかなりありがたいです。そういうお馴染みのゲストの方たちと、共に長大な作品を一緒に作っていけることが嬉しいですね。

――生田さんと中村さん、お二人の舞台俳優としての魅力はどういうところに感じていますか?

斗真くんとは彼が17歳の時に初めて共演しているのですが、しかもその時の『スサノオ~神の剣の物語』(2002年)で彼が演じたカゼヨミという役は、初演の時に私がやっていた役だったという縁もあり。その後、彼が新感線に出るたびになぜか必ず僕も座組に入っているんですよ。聖子さんや古田くんが出られない時も私はいて、22年間の成長をすぐ横で見てきたわけでもあって。本当に真っ直ぐでよく気のつく、明るい男です。対照的に倫也くんはパッと見、印象は決して明るくはないんですが、コメディーもやれるくせに物言いとかからちょっとすかした印象を受けてしまうだろうし、実際そうなんですよね。ニヒル、と私は常々表現しておりますが、なんか虚無的な雰囲気を醸し出すんです。受け答えはちょっと素っ気なかったりもするけれど、実はものすごいアツい人。と、いう姿をこれまで2度共演して感じてきました。パッと見で陰と陽にも見えるこのお二人が、仲が良いのもよくわかります。今回もぜひイチャイチャしてくれればいいなと思っています。それからもうひとつ。生田斗真と中村倫也が、古田新太と一緒に新感線の舞台に立つのは実は今回が初めてなんです。この三名が舞台上で睨み合う姿は見ものだと思いますし、きっとみなさまも期待しているでしょうが、そのまま大いに期待していただいて大丈夫です、保証いたします(笑)。もちろんりょうさんや西野さんもいつもとは違った感じの側面を披露してくださり、二人共がとても強いキャラクターを演じる上に、今回はアクションにも挑んでくださることになっています。そんなところも、楽しみにしていただければと思います。ともかく今回は、生田斗真さんの美しさが客席にまんべんなく伝わればいいなと思っています。39歳になってなお美貌を保つ生田斗真さんをどれだけ輝かせられるかが、今回の全共演者のテーマですので。ぜひ、そこをがんばっていきたいと思っております。

――では最後にお客様に向けて、お誘いの言葉をお願いします。

ついに生田斗真、中村倫也、古田新太が新感線の舞台で、相見(あいまみ)えます。りょうさんと西野七瀬さんという心強い味方も加わってくださいます。劇団員たちも老骨に鞭打ってがんばりますので、博多座、明治座という芝居小屋で架空時代劇を見て、フェスティバルホールという大劇場で歴史スペクタクルを楽しめる公演となります。長期間にわたりますが、関係者一同無事に完走できることを目指しますので、どうぞみなさん、遅れずについてきてください!

thank you so much.

これは毎度言っていることでもありますが、新感線に関わってくださっている全スタッフのみなさんにサンキューと言いたいと思っています。作家の中島さんが書いたスペクタクルな脚本にいのうえが派手な演出をつけ、俳優部がその物語を演じることで舞台が出来上がっていくのですが。それをお芝居にするには美術や照明、音響や衣裳、小道具といった各セクションのスタッフの方々の尽力がなければ成り立ちません。そのことをお客様にもぜひ改めて認識していただきたいと思っています。小さな小道具からちょっとした音響さんのきっかけに至るまで、各セクションが細心の注意を払うことで新感線の世界が作られているんです。そのことは声を大にして言い続けたいと思っています。

profile

(あわね・まこと) 1985年『ヒデマロ2~銀河烈風斎の逆襲』より劇団☆新感線に参加。冷酷な悪役からインテリジェンス漂う役どころまで多彩なキャラクターを演じ、劇団内外で広く活躍。また、人物の観察力が鋭く、イラストも得意なことから雑誌のコラムなどでもその多彩な一面を見せる。劇団公演以外の近年の主な出演作品に、【ドラマ】『半沢直樹』(20・TBS)、『仮面ライダーウィザード』(12-13・EX)、『勇者ヨシヒコと悪霊の鍵』(12・TX)、【映画】『大怪獣のあとしまつ』(22)、『恐怖人形』(19)、『これでいいのだ!!映画★赤塚不二夫』(11)、【舞台】『バンピーラダーズ』(24)、『嵐になるまで待って』(23)、『フェイクキラーズ』(22)、『明治座で逆風に帆を張・る!!』『りぼん,うまれかわる』『今日もしんでるあいしてる』(21)、『オリエント急行殺人事件』『浦島さん』(20)、『麒麟にの・る』(19)などがある。