中村倫也
コメント

中村倫也

――今回“生田斗真サンキュー公演”だという話を聞いて、中村さん自らが手を挙げたというもっぱらの噂ですが。

えー、どうだったっけなぁ、誰か、話を盛ってるんじゃない?(笑)全然覚えてないです。だけど最初の頃は斗真くんと倫也で珍道中もの? それはもう楽しそうだねと話していたはずだったんですが、気づいたら『バサラオ』になっていました。

――最初に聞いていたあらすじとは違う話になっていた。

でも、別にそれはそれで。あまり細かいことは考えなかったです、楽しくすればいいんだしと思って。

――台本を読んでみて、感想はいかがでしたか。

まず、顔で勝負するみたいなのって、一体どうやって大きな劇場で表現するんだろう?と思いました。あとは、パワーゲームというか主導権の握り合いみたいな話で、そのバランスが目まぐるしく変化していくからゆっくり読まないと初見では理解しづらいというか。誰がどっち側にいて、今はどうなってるんだっけ、と。だからひとつひとつ作っていく上で、舞台上にいる人間が共通認識をしっかり持っていかないとな、と。そういうことも、いのうえさんがフォーメーションでわかりやすくしてくれると思いますが、そこにどういうニュアンスがあって、それぞれの熱量はどのくらいだろうとか、お客さんの理解度はどうだろうとか。それぞれに裏の考えがあったりもするし。自分の役は特にですけど、どういうものをどういう空気感で適切に残していき、次々と出していくものも早過ぎず、遅過ぎず、一番適切な間で運べるだろうか、とか。それが今回の稽古でやるべきことだな、とも思いました。あとは単純に、ケガしないことももちろん大事です。もう、無理はできない年齢ですからね(笑)。

――今日、ヴィジュアル撮影で衣裳を着けてみて、いかがでしたか。

あの袖、苦手なんですよ。『狐晴明九尾狩』(2021年)の時にトラウマになったんですから。

――やっぱり邪魔ですよね。

そもそも、戦う服じゃないですから。本番までにうまいこと、僕が首脳陣を誘導してもうちょっと違う格好にしてもらいたい……そうなっていなかったら、うまく誘導できなかったんだなって思ってください(笑)。烏帽子も、大変なんですよ、あれ。みなさんには、なかなか伝わらないと思いますけど。もう、早めに弾き飛ばすようにしてもらおうかな。しかも今回、公演数も90以上でしょう? 無理だなと思ったことは早めにいろいろな部署に細かく相談して、どうにかいい意味でラクさせてもらえるようにしたいです。

――共演者については、まずは生田さんとは『Vamp Bamboo Burn~ヴァン・バン・バーン!~』(以下『VBB』・2016年)以来ですが。

あれは8年前か。僕、もちろん仕事仲間や知り合いは多いですけど、プライベートでは芸能界の友達ってほとんどいなくて。その中で数少ない、飯をオゴってくれる兄さんで、今でも仲良くさせてもらっているんです。

――今回、久しぶりにご一緒できることに関してはどういう感慨をお持ちですか。

8年前とはお互いに、同じところもあれば違ってきた部分もあるし、年齢的にもキャリア的にも考え方とか見えているものも変化していると思うので、それをどう混ぜていけるか。だけど今回、意外にも斗真くんの役がおバカなキャラクターじゃなかったので。

――そうか、その点では前回とだいぶ関係性が違ってきますね。

そう、キャラクターとして今回も、バカと冷静との掛け算になるかと思ってたんですよ。でもそうではないとなると、ふだんから仲の良い人が真面目に芝居してるのをゼロ距離で見ることになるわけで、それってちょっと笑けるじゃないですか。

――わかるような気がします(笑)。

しかも、あの人の役ってきっと派手派手なんでしょ。だから絶対にプライベートの友達目線にならないように、ツッコミたい衝動に駆られすぎないように。

――そこは、なんとか抑えて。

僕も役として、ちゃんと一生懸命お芝居しなければ。「あいつ、素に戻ってニヤニヤしてるな」って思われないように精一杯、気をつけます。稽古場で人のことを見てニヤニヤ笑ってる人は、もう既に古田さんがいますからね(笑)。

――その古田さんと共演するのは、新感線の舞台では初めてですね。

そうです。だけど古田さんとご一緒した『ロッキー・ホラー・ショー』(2011年)の時、演出はいのうえさんでしたし、スタッフも新感線でお馴染みの顔ぶれだったから、それほど初めて感はないです。あ、だけどそういえば、古田さんがいる時の他の劇団員の人たちの様子を見るのは初めてなので、そっちのほうがちょっと気になります(笑)。

――そして今回は、斗真さん演じるヒュウガが掲げる信条がキーワードにもなってきます。そのことにちなんで、中村さんが舞台に立つ上で大切に思っている信条のようなことって、何かありますか。

大事にしているのは、ただお客さんに楽しんでもらうこと。それしか考えていないです。あとは何かな、ちゃんと歯を磨くことくらいですかね(笑)。それにしても、考えてみると主演ではない舞台って久しぶりなんです。海千山千いろいろなとこから集まってきている人のさまざまなやり方を、真ん中に立って受けて、循環させてパスを回して、ということを主演の時はやっているので、それとは違う立ち位置でできることはとても楽しみ。そういう意味で言うと、自分が真ん中に立っている時は周りに対して、「ヤバイ!」って思わせてほしいと思っているんです。好き勝手やっていいからぜひ「ヤバイ! 俺も、もっとやんなきゃ!!」って思わせてほしい。俗な言葉で言うと「食われる」って思いたいんです。だから今回、斗真くんにそう思ってもらえるようにがんばりたいです。これはもう、内側の話ですけどね。でも、そうやって取り組んだほうが、より良いものになると思うんです。

――生田さんも、『VBB』の稽古中に急に中村さんのギアが上がって、まさにそういう気持ちになったことがあるとおっしゃっていました。

でも僕と斗真くんとでは、種類が違いますからね、持っている強みも違うし。もし、何か被っているならそこは譲り合わなければお互いが活きないけど、被っていないからこそぶつかって突き抜け合った方が相乗効果になると思っているので。だからそこは、しっかりやりたい。あくまでも無理しない程度に、ですけれども(笑)。それに、ただ力を込めればホームランを打てるというわけではなくて、むしろ少しは力が抜けているほうが打てたりする。そういうことも、やっぱりだんだんキャリアとともに学べてきたので、その中で工夫しながらやっていきたいです。

――また今回は“ピカレスクロマン”でもありますので、悪役に感じる魅力や面白さをお聞きしたいのですが。

悪役って、いいですよね。薄い悪役は、やりたくないですけど(笑)。ある意味、悪役だけが何を壊しても許されるという気がするんです。いい奴って、いろいろなものを守らなきゃいけないじゃないですか。それで、守ろうと奮闘する物語におのずとなると思うんですけど、悪い奴は脈絡もなく思いつきで行動できるし、何を壊したとしても悪い奴だからと許されてしまう。なんだかそういう特権みたいなものがありますよね。がっちりと理屈が通ってなくてもいいし。そこは悪役の良さなんじゃないでしょうか。確かに今回は悪い人間が多いのかもしれないけど、いかにも悪役っぽく芝居すると薄いじゃないですか。僕の印象では、みんな濃い欲望を抱えているというイメージですね。

――今回の作品に取り組むにあたっての目標やテーマなどはありますか。

この長い公演期間を無事に最後まで全部、しっかり走り抜けたあと、次の日にちゃんと身体が動くこと。あとは僕、ほっといてもやることはやる人間なので(笑)。とにもかくにも、いい意味でアクセルよりもブレーキを意識しながらやる必要がありますね。

――改めて、新感線は中村さんにとって、どういう場所ですか。

40年以上やっている劇団は世界でも有数の存在だと思いますし、それをこの規模でやっている日本の劇団は少ないわけで。まずそれがすごいと思います。90年代後半くらいから劇団員のほかに外部の人も呼んでやるようになったそうですが、そのゲストに対する迎え入れ体制がしっかりしているのも本当に素晴らしい。劇団の人たちみんなに思うのは、いのうえさんが考えることを具現化するのが心から好きなんだなってことと、ずっとバカやってたい人たちなんだなってこと。それがまったく揺らいでいないのも、いいですよね。世の中というか、芸能界、演劇界には俳優にとっていろいろな仕事があって。その中で「あそこに行けばこの味がするんだろうな」というのが、新感線の舞台にはちゃんとあるように思うんです。自分も今回、新感線に出るのは3回目ですけど、今日も撮影現場にいらっしゃるのは既に知った顔ばかりだから、たぶんこういう雰囲気が欲しいんだろうなとか、なんとなくもう知っているわけです。自分にとっては、そういう集団ですね。そしていつでも、また混ぜてもらって一緒になってバカやりたいなっていう場所です。

――では、最後にお客様に向けてのメッセージをいただけますか。

本当に、楽しみにしていただければ何よりです。僕らもそうですけど、みなさんも観るからには楽しもうとする気持ちとコンディションで参加できたほうがより楽しめると思いますので、ぜひともそういう心持ちで来ていただければと思います。

thank you so much.

この間、好きな画家というかイラストレーターというか、漫画家さんの個展に行ったんです。その個展の場所が、あれは区の施設か何かなのかな、そこの係員さんが全員こぞって“ド”が付くほど親切で。説明も丁寧だし、駐車券をなくしたと言ったらサービスセンターみたいなところまで走ってくれて「届いてませんか?」「ありましたよ~!」みたいな。「本当にありがとうございました」「楽しんでいただけましたか?」「良かったです、お帰りはこちらです」みたいな。とんでもなく生活が充実している人ばかりが集まっていたのかな。もうね、あそこのスタッフみんなに改めて「サンキューな!」って言いたいです。

profile

(なかむら・ともや) 2005年に俳優デビュー。数々のドラマ・映画などの映像作品や舞台作品に出演し、確かな演技力と豊かな表現力で役者として存在感を放っている。また、新刊エッセイ集「THE やんごとなき雑炊」を発売するなど俳優業のみならず多方面に活躍の場を広げる。14年に初主演舞台『ヒストリーボーイズ』で第22回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。19年にはエランドール賞新人賞を受賞。近年の主な出演作に、【ドラマ】『沈黙の艦隊シーズン1~東京湾大海戦~』(24・Prime Video)、『ハヤブサ消防団』(23・EX)、『石子と羽男-そんなコトで訴えます?-』(22・TBS)、【映画】『ミッシング』(24)、『沈黙の艦隊』『宇宙人のあいつ』(23)、『ハケンアニメ!』(22)、【舞台】『OUT OF ORDER』『ケンジトシ』(23)など。劇団☆新感線には『Vamp Bamboo Burn~ヴァン!バン!バーン!~』(16)、『狐晴明九尾狩』(21)以来3作目の参加となる。