木野花 コメント

前作『花の紅天狗』(1996、2003年)に宿題を残している感覚があって、再演が終わった直後に「もう一回あるよね」と言っていたものの、自分が70歳に突入する頃にはさすがにもうないだろうと諦めていました。なので、このコロナ禍の影響で演目変更の結果、いきなり月影花之丞が舞い込んできた時は「しめた!もう一度できる!」と小躍りするような気分でした。

私にとって新感線の舞台は、いつもリベンジの場です。いのうえさんの付ける段取りを自分のものにして、自由に舞台にのることを目指しながら未だ到達出来ず、初演の時はあまりの悔しさに、風呂場で一人泣いた夜もありました(笑)。段取りを覚えるだけで精一杯、手も足も出ませんでした。あの時既に48歳、今まで何をやってきたんだろうと思ったら泣けてきたんですね。新感線に出たことで、自分が相当不器用な役者だということにも気付かされました。それからですね。一から出直しで役者修行しようと思ったのは。だから、いのうえさんは、私にとっての月影先生なんです。今回も、いのうえさんの段取りを自分のものにするのを目指して挑戦です。

スピンオフの新作になりますが、月影花之丞は健在ですね。あれから18年経っているのに、むしろパワーアップしている。テンションも、無茶なダメ出しも、猪突猛進、我が道を爆進しています。

共演者もガラリと変わりましたね。阿部さんとは舞台でご一緒するのは初めてですし、浜中さん、西野さんのお若い方々とも初共演なので、はたしてどんな“劇団月影花之丞”になるのか想像つかないんですが、楽しみは倍増してます。古田とはこの『紅天狗』の初演の時に一緒でした。テンション上げ過ぎて、登退場が上手か下手かも分からなくなってた私を「コッチだ!」って袖に引っ張り出してくれて、それが一回や二回じゃないんです。世話になったなぁ(笑)。今回こそは、古田から自立しなければ!と思っているのですが、果たして何が起こるか、怖いようです。

そんなこんなで、あの月影花之丞がパワーアップして復活します。今回も歌あり踊りあり、もちろん笑いありの盛りだくさんです。こんな時勢だからこそ、新感線を観て「ああ、いい時間を過ごしたなあ!」と晴れ晴れと楽しい気持ちになっていただけるよう、私も精一杯、力の限り役者修行に励みたいと思っております。今回も気分はすっかり新人です!

舞台に立つ上での信条

毎日が、初日であり千穐楽。という気持ちで舞台に乗りたい。 舞台は一期一会だから、毎回これが最後だと思って、芝居とお客さんと出会いたいです。

Profile Kino Hana 弘前大学教育学部美術学科を卒業。上京して演劇の世界に入る。1974年に東京演劇アンサンブル養成所時代の仲間5人と、女性だけの劇団「青い鳥」を結成。翌年に旗揚げ公演を行い、80年代の小劇場ブームの旗手的な存在になる。86年、同劇団を退団後、女優・演出家として活躍している。近年の主な出演作は【舞台】『さるすべり〜コロナノコロ〜』(20)、『十二番目の天使』(19)、『あれよとサニーは死んだのさ』(19・演出)【映画】『MOTHER マザー』(20)、『閉鎖病棟ーそれぞれの朝ー』(19)、『愛しのアイリーン』『母さんがどんなに僕を嫌いでも』(18)【ドラマ】『グランメゾン東京』(19・TBS)など。21年4月に映画『砕け散るところを見せてあげる』が公開予定。